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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和34年(ナ)1号 判決 1960年10月24日

原告 田淵順太郎 外四名

被告 石川県選挙管理委員会

主文

原告等の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「昭和三三年一〇月二七日施行された石川県羽昨郡富来町長選挙はこれを無効とする、訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、昭和三三年一〇月二七日石川県羽昨郡富来町において、同町長選挙が施行され、原告等はいずれも右選挙の選挙人である。右選挙における候補者は訴外岡田秀造、同浜辺半七郎の二名で、選挙の結果、浜辺半七郎四二六一票、岡田秀造四〇三一票の各得票があつて、右浜辺半七郎が当選した。

二、しかし、右選挙には次のような事実がある。

(一)  選挙防害の事実

(イ)  浜辺半七郎候補及びその選挙運動者訴外中間則一、同西尾直吉、同河島栄達、同尾崎吉平、同中ノ端甚之助、同戸坂徳松、同黒口良治、同平田重勝等多数のものが、集団的且組織的に、選挙直前の昭和三三年一〇月二五日、二六日、選挙当日の二七日の朝に亘つて、富来町全域において、「岡田秀造候補は既に選挙違反で羽昨警察署に連行留置された。もはや金沢地方検察庁に身柄を送置されている。諸君等は右岡田候補に一票を投じても無駄であるから、挙つてわが浜辺半七郎候補に投票を賜りたい。」趣旨を宣伝し、以つて岡田候補に対し選挙防害をした。

(ロ)  笹波投票区の区長訴外日脚清一は選挙人の同区民に対し「私は今次選挙で浜辺半七郎候補を支持応援するから、君等も右候補を支持してもらいたい。若し相手方候補の岡田を支持するものがあれば、その者には以後部落の要職を与えない」旨申し向け、自ら同区投票所の投票管理者となつていた。

(二)  投票所の設備に違法な事実

風無投票所は羽昨郡富来町西海公民館の建物に開設されたが、投票受付の場所を階下に設け、他の場所を階上に設けた。従つて、投票管理者及び投票立会人等は投票の設備全体について、投票受付より投票の投函に至るまでの一連の投票手続の不公正の有無を監視し得ない状況にあつた。右投票所における投票総数は九四九票の多きに及んでいるが、右のような違法な投票所における投票はすべて無効である。

(三)  投票箱についての違法な事実

(イ)  入釜投票所においては施錠封印しないまま午前七時より午後四時まで投票を執行し、その間約三〇〇票の投票がなされた。

(ロ)  今田投票所においては、投票管理者訴外木本米松、投票立会人訴外菖蒲広吉、同茂腹賢正、同喜佐忠信等はその投票開始後一時間を経た午前八時頃、それまでに投票した選挙人が退散し投票所内に投票人のいなかつた機会に投票箱を開披した。

(四)  投票立会人遅参(定員欠缺)の事実

風無投票所においては、投票開始の午前七時に至るも富来町選挙管理委員会の選任した投票立会人三名中立会人坂本久造は定刻より三〇分、同川口秀三は一時間近く遅れて出頭し、その間定数を欠いていたのに定刻通り投票を開始し、その間七三票の投票を執行した。

(五)  代理投票の手続の違法な事実

(イ)  風無投票所における違法

風無投票所においては、代理投票の補助者は適法に投票管理者から選任されたものでなく、富来町役場吏員訴外水島治一が勝手に自任し、代理投票請求者を階上の投票記載場所に連れて行かず階下受付隣りの応接室で代筆し、且つ立会の補助者を附していない。

右は公職選挙法第四八条に違反すること明白である。

そして、右投票所の投票録によると、当日の代理投票者三九名となつているが、その他に代理投票者として、訴外川口一二三、同銭谷キミ、同松谷義則、同小松辰次郎の四名あつて、合計四三名である。

(ロ)  酒見投票所、草木投票所、地頭町投票所における違法

1 酒見投票所、草木投票所、地頭町投票所における代理投票の補助者は適法に投票管理者から選任されたものでなく、すべて富来町役場吏員が勝手に自任したものである。

2 酒見投票所の代理投票の補助者訴外吉川重子、同酒井有美はいずれも役場吏員であつて、適式に選任されたものでなく、吉川重子の如きは代理投票者訴外田川りよに対し「浜辺を書けばいゝのだろう」と誘導している。

3 地頭町投票所においては、訴外坂口モヨが代理投票を請求したところ、役場吏員訴外林康一が勝手に代筆し、本人に呈示せず、立会人も附していない。

4 酒見投票所の代理投票者は投票録によれば、一七名となつているが、その他に訴外田川りよ、同橋岡その、同山本みと、同奥下きせの代理投票者があつて計二一票であり、草木投票所の代理投票は一二票、地頭町投票所の代理投票は三一票である。

(ハ)  右四投票所における違法な代理投票の数は実に一〇七票に及んでいる。

(ニ)  さらに中浜投票所においては、訴外野中ふで、同沢田つや、入釜投票所においては、訴外黒杉柳子、大西投票所においては、訴外小路そい、がいずれも依頼もしないのに、代理投票をさせられ、何人を記載したのか告知されていない。

(六)  不在者投票に違法な事実

(イ)  公職選挙法第四九条第三号の疾病により富来町病院(約三〇名)その他の病院に入院していた者計四五名の不在者投票については、同法施行令第五〇条以下の規定を履践することなく、病院の看護婦をして、これに当らしめ、投票者に鉛筆をもつて候補者の氏名を記載させ、殊に投票者をして投票用封筒の封をしないで簡単なボール函に投入させ、著しく選挙の公正を疑わしめるものがある。

(ロ)  地頭町投票所の投票録によれば、訴外笹原とくが不在者投票をした旨記載されているが、同人は本件選挙告示以前に九州に赴き、選挙期間中同地に滞在し、不在者投票をしていない。

(ハ)  富来町東増穂の訴外浜野さきの息子は東京に遊学し、浜辺半七郎候補の二男と友人であるところから、これに不在者投票をさせるべく本件選挙告示の一週間前の昭和三三年一〇月一三日頃不在者投票用紙等を前記浜野さきに持参し、同人からこれを東京都へ送致している。

(ニ)  地頭町投票所の投票録によれば、訴外橋本きむが選挙当日出頭して投票した如く記載されているが、同人は昭和三三年三月頃以来東京都に稼動する夫訴外橋本竹夫の許に在住し、当日投票は勿論不在者投票もしていない。

(ホ)  同じく右の投票録によれば、訴外天野武、同天野降代が不在者投票をした旨記載されているが、右両名は夫婦で、既に鳳至郡柳田村に転出し、選挙権もなく、且つ、請求もしないのに不在者投票用紙及び投票用封筒を送付して不在者投票をさせている。

(ヘ)  地頭町投票区における選挙人高豊は不在者投票を行なつているが、その不在者投票の要件並びに手続に違法がある。

(ト)  地頭町投票所の投票録及び受付簿によれば、投票数一三五〇、不在者投票の不受理決定数一二であるから、該一二を投票数より控除すべきであるのにこれを控除していない。

(チ)  右のように違法無効の不在者投票数は約六〇票に達するが、この他にも多数ある。

(七)  選挙権のない者の投票の事実

(イ)  地頭町投票所の受付簿には訴外高田一郎、同鹿島勝二、同鹿島明美夫妻が不在者投票をした旨記載されているが、高田一郎は昭和三三年七月一日加賀市大聖寺町家畜保健所に転勤し、鹿島夫妻はともに同年四月一日七尾市作報事務所に転勤し、いずれも選挙権を有しないものである。(但し同人等は当該選挙人名簿には登載されている)また、前記受付簿には訴外北山久公、同北山あき子も投票した旨記載されているが、両名は夫婦で夫久公の昭和三十三年八月十日附北陸鉄道株式会社富来営業所転勤命令により富来町に転入したもので、末だ法定の当該選挙権を有しない。更に訴外鳥宮克子も不在者投票した旨記載されているが、同人は既に五年以前から富来町を離れているものである。(但し同人等は当該選挙人名簿には登載されている)

(ロ)  入釜投票所の投票受付簿には、訴外泉しのぶが投票した旨記載されているが、同人は昭和三三年九月二六日鳳至郡門前町より富来町泉方に嫁入りしたもので、未だ当該選挙権を有していなかつた。(但し選挙人名簿には登載されていた)

(八)  偽造の疑いある投票が存在している事実

(イ)  大西投票所の受付簿によれば、出頭した投票数及び不在者投票数等合せて四六〇名であるのに、投票録によれば、入票数は四七四名と記載され、偽造を疑わしめる票が一四票ある。

(ロ)  風無投票所においても入票数は受付簿記載の数を一〇票以上超過している。

(九)  投票録の記載に虚偽の事実

(イ)  風無投票所の投票録には、投票立会人の補充員として、訴外木下不及、同大庭喜三治の二名が選任され、これを承諾し、解任した旨の書面が添付されているが、これは全くの虚偽であり、原告等が昭和三三年一一月七日富来町長選挙管理委員会に対し異議申立をなし、投票立会人の欠缺を主張したところ、同委員会があわてゝ右虚偽の書面を作成し、投票管理者高岩治三郎に強いて押印を求めたものである。また、右投票録も後になつて書直したものである。右は投票録には毎葉に立会人の契印をなすべきであるのにそれがなされていないことに徴し明白である。

(ロ)  福浦投票所の投票録によれば、代理投票の補助者に訴外松山宗縁、同柳橋豊元が記載されているが、真実は訴外角見ミツ子、同浦野和子が任ぜられていた。

(ハ)  右のように最も重要な投票録にかゝる重大な虚偽の記載がなされていることは、当該選挙が果して公正に執行されたか否かについて甚しい疑を生ぜしめる。

(十)  以上、風無投票所、酒見投票所、地頭町投票所、草木投票所、入釜投票所、福浦投票所の投票所のみを見ても、投票立会人の欠缺した投票、法定の手続を履践しない代理投票並びに不在者投票、或いは選挙権ない者の投票、更には受付簿と投票録の合致しない偽造の疑い濃厚な投票等が二七〇票以上の多きに達するが、その余の他の九ケ所の投票所についても岡田秀造候補を支持するものと思われる者は一人も投票管理者や投票立会人に選任していない。従つて、違法の投票が更に多数存在することが推定に難くない。

(十一)  不在者投票用紙請求に関する違法の事実

(イ)  本件選挙期日の告示は昭和三三年一〇月二〇日、選挙期日は同年同月二七日で投票用紙及び不在者投票用封筒交付の請求は同年同月二〇日から同月二十六日までの間に富来町選挙管理委員会の委員長に対してなされるべきであるのに公職選挙法施行令第五〇条に違反し、右告示のあつた一〇月二〇日の前である一〇月一六日から同月十九日までに請求したものが五三名に及んでいる。そして右請求書はすべて富来町選挙管理委員会が自ら印刷作成し、右請求者に爾前に送付して請求せしめたもので、右送付は遅くとも一〇月一五日以前であることが明らかであり、右送付したものはすべて当時の現町長であつた浜辺半七郎候補の支持者と目される者のみで、その氏名は次のとおりである。

訴外原升義、同小山峻起、同宮井清作、同田中俊弘、同藤田勝、同本多喜久二、同柴田武継、同川端源也、同河島正志、同河島アサノ、同大橋藤男、同市堀正平、同谷内佐太男、同谷内初枝、同浜野博光、同河原豊治、同出村一信、同端谷外二、同石黒幾久、同遠山文子、同高村文次、同村田清一、同村田保子、同中林幹雄、同小島千鶴子、同坂本勇、同笠原とく、同谷口秀雄、同貫井陵雄、同飛弾和夫、同寺井卓、同舟元春雄、同鹿間久雄、同大塚太右ヱ門、同浅野俊雄、同高村美好、同大高ます、同浅野欣一、同飛弾民子、同榊原降代、同天野武、同山崎嘉則、同大平末雄、同徳田桃子、同徳田三郎、同大平春雄、同大平みつい、同室庄太郎、同新谷茂雄、同浜和三郎、同中新弘、同油谷真夫、同向田トモ子、

(ロ)  右のような請求者はいずれも、東京都、横浜市、大阪市、広島市、福岡市等遠隔の地にある。従つてそれらの地からの一〇月二〇日、二一日の請求者も前同様になされたものと解される。そしてその数は数十名に及ぶ、これらの投票はすべて無効である。

(ハ)  原告等は告示以後富来町選挙管理委員会に対し、投票用紙及び不在者投票用封筒の送付につき照会したところ、同委員会は「郵便が二往復要するから間に合わないでしよう」と言うことであつたので、岡田秀造候補の支持者と目される約八〇名の不在者投票者に対する右請求書の送付を断念した。

富来町選挙管理委員会の浜辺半七郎候補の支持者のみに前記のような違法な措置を執り、岡田秀造候補の支持者には投票を断念させる措置を講ぜしめたことは著しく選挙の公正を害したもので本件選挙は無効である。

三、以上詳述したように、本件選挙には、選挙妨害のほか、投票設備に関し、投票箱に関し、投票立会人に関し、代理投票に関し、投票録の記載に関し、また不在者投票手続等に関し、それぞれ違法がある。

判例によれば、「選挙の規定に違反するとは選挙管理の機関が管理執行の手続規定に違反する場合は勿論、不法の選挙運動又は選挙妨害によつて選挙が不公正な手段により行われた場合も含む」と解されているので、前示のように不法な選挙妨害、不法な選挙の管理執行が投票所の内外を問わず、広汎に行われたことは右判例の指摘事項に該当するものであり、これらにより選挙民の自由な意思が枉げられ、選挙管理委員会自ら法令を無視し選挙の自由と公正を根底からじゆうりんしたものというべきであつて、仮りに右の違法がなかつたら選挙の結果に異動を生じ、浜辺と岡田は当落その所をかえていたことは明白であるから、本件選挙は無効であるる。

四、原告等は以上のような事実を主張して、昭和三三年一一月七日富来町選挙管理委員会に異議を申立てたところ、同年一二月四日右委員会は該異議申立を却下した。

原告等は更に被告に対し訴願をなし、本件選挙の無効を主張したが、被告は昭和三四年三月三日附で右訴願を棄却する旨裁決し、同月五日該裁決書が原告等に送達された。

よつて、原告等は本件選挙無効の宣言を求めるため、本訴に及んだ次第である。

(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因一について、

原告等主張事実中、昭和三三年一〇月二七日石川県羽昨郡富来町において、同町長選挙が施行され、原告等はいずれもその選挙人であること、右選挙の候補者の中に訴外岡田秀造、同浜辺半七郎がいて、浜辺半七郎が得票数四二六一票で当選したことは認めるが、その余の事実は否認する。

この選挙の候補者数は右岡田秀造、浜辺半七郎及び訴外小田俊与の三人で、その得票数は浜辺四二六一票、岡田四〇三二票、小田一票である。

二、請求原因二(一)について、

原告等主張の(イ)(ロ)の事実中(ロ)の笹波投票区における投票管理者が訴外日脚清一であつたことは認めるが、その余の事実は争う。

三、請求原因二(二)について、

原告等主張事実中、風無投票所がその主張のような構造であつたことは認める。しかし建物の構造上やむなく、投票受付の場所だけを階下に設けたもので、若干不適当であつたかも知れないが、不正の行われる余地が無いものであつたから違法ではない。

四、請求原因二(三)について、

原告等主張の(イ)(ロ)の事実中(ロ)の今田投票所における投票管理者が訴外木本米松であり、投票立会人が訴外菖蒲弘吉、同茂腹賢正、同喜佐忠信であつたことは認めるがその余の事実はすべてこれを争う。

五、請求原因二(四)について、

原告等主張事実中、風無投票所において、投票立会人坂本久造、同川口秀三の両名がそれぞれ遅参したことは認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

立会人坂本久造は約二〇分、川口秀三は約四〇分遅れて参会したものである。そして投票開始時から午前八時までの一時間の入票数が七三票であるから、その間の投票者が最高をみても七三名以下である。右遅参立会人が参会するまでの間は事務従事者訴外木下不及及び同大庭喜三治の両名が投票管理者から投票立会人の補充選任を受けたものとして、立会人としての職務を遂行していたから、実質上法定の投票立会人があつたと同様な状況において投票が行われ、その間選挙の公正を害することはなかつた。

六、請求原因二(五)について、

原告等主張の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の事実中、草木投票所の代理投票が一二票地頭町投票所の代理投票が三一票であることは認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

原告等主張の訴外水島治一は投票当日風無投票所の投票管理者から口頭で適法に選任された代理投票補助者であり、且つ、同投票所の事務従事者である。なお、訴外銭谷キミ(風戸ハの三九の一)は銭谷き己として同投票所の投票録の三九名の中に記載されている。酒見投票所、草木投票所、地頭町投票所における当日の代理投票補助者はすべて適法に選任され、事務処理を確実にするため、「代理投票処理伺簿」なるものを設けて代理投票の申請の都度代理投票者、補助者の氏名を記入して管理者及び立会人の押印を受けて処理されている。

原告等主張の訴外吉川重子、同酒井有実はいずれも酒見投票所の事務従事者である。同投票所には「代理投票処理伺簿」があるから、原告主張のような余分な代理投票者がある筈がない。

七、請求原因二(六)について、

原告等主張の(イ)ないし(チ)の事実中、病院の看護婦が不在者投票に際し一部補助執行に当つたこと、またその際投票者が鉛筆を使用し、一部にボール箱を使用したこと、及び地頭町投票所の投票録及び受付簿に、投票数一三五〇、不在者投票数の不受理決定数一二の記載があることは認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

公職選挙法第四九条第三号事由に該当する不在者投票のうち、同法施行令第五五条第二項第二号によつて病院長を管理者として不在者投票をしたものは四〇名であり、これらの不在者投票の管理は次のように適法に行われている。

即ち、不在者投票の執行に当つては、指定病院におけるものばかりでなく、不在者投票一般について、「不在者投票管理者がその場所に居なくても、不在者投票管理者の管理のもとに職員がその事務を補助執行するのであれば差支えない」(昭和三〇年一月一日自丙管発第五号兵庫県選管あて自治庁選挙部長回答)のであり、投票の筆記用具については一般投票の場合と同様に鉛筆で差支えなく、投票用封筒は選挙人が自ら封をして提出している。なお、不在者投票においては一般投票における投票箱の規定は準用されていないから投票用封筒の提出を簡単なボール箱で受けても差支えない。これは投票を投票用封筒に入れて封をすることが一般投票における投票箱投入と同様に投票の秘密は充分保持できるから投票箱は必要でなく、単に便宜上箱を使用したに過ぎない。

原告等主張の訴外笠原とくは公職選挙法第四九条第二号に該当し、滞在地の福岡市選挙管理委員会委員長のもとで適法に不在者投票をしている。

原告等主張の「訴外浜野さきの息子」は訴外浜野博光であつて、同人から適法に請求があり、告示日である一〇月二〇日同人に対し直接郵便で投票用紙及び投票用封筒等を送付した。しかし投票しなかつたようで、東京都大田区選挙管理委員会から投票の送致がなかつた。

原告等主張の訴外橋本きむは富来町高田三の八八番地の訴外加納次右ヱ門の妻で同所に居住しており、当日投票所において投票した。

原告等主張の訴外天野武、同天野隆代夫妻の不在者投票の請求手続は適法になされたものである。その選挙権の要件については疑いがあるが、仮りに要件を欠くものとしても、いわゆる選挙無効の事由とはならない。

地頭町投票所の投票録の投票数から不在者投票の不受理決定数を控除すべきであるとの原告の主張は理由がない。けだし、これは公職選挙法施行令第七一条によつて選挙長が最終的に更に受理、不受理の決定をしなければならないからである。

八、請求原因二(七)について、

原告等主張の(イ)(ロ)の事実中、訴外高田一郎、同鹿島勝二、同鹿島明美は当該選挙権を有しないものであること、(但し同人等は当該選挙人名簿には登載されていること)、訴外北山久公、同北山あき子が当該選挙人名簿に登載されていること、訴外鳥宮克子については原告等主張のとおりであること、訴外泉しのぶには当該選挙権を有しないこと(但し同人は当該選挙人名簿には登載されていること)は認めるが、その余の事実はすべてこれを争う。

訴外北山久公、同北山あき子は昭和三三年七月一八日より富来町に居住しているもので選挙権の要件を充たしている。

原告等主張のこれらの事実はいずれも選挙の無効原因となり得ないものである。

九、請求原因二(八)について、

原告等主張の(イ)(ロ)の事実はすべて争う。

大西投票所の受付簿の係員認印の数(不在者投票の分も含めて)は四七四で、別に投票録と相違していない。

十、請求原因二(九)について、

原告等主張の(イ)の事実は知らない。

投票録は選挙の経過を単に記載し、以て選挙は自由公正に行われたことを証する書面たるに止まり、それ以上の目的を有するものではない。選挙が自由、且つ公正に行われたか否かは専ら投票当日までの選挙の手続が、適法に行われたか否かによるものであり、投票録の記載から直ちに選挙の有効無効を論ずべきではない。仮りに、投票録の記載に関し、違法があつたとしても事務従事者の民事上、刑事上の責任を問われる場合があるに過ぎない。

原告等主張の(ロ)の事実はこれを認める。

しかし、投票に関する事務の円滑且つ適正を図るため、心要ある場合は、投票管理者において、選挙管理委員会によつて選任された者以外の者を臨時に投票所の事務に従事せしめることは差支えないことである。(実例がある。)

原告等の(ハ)の主張はこれを争う。

投票録に後日不必要な書類を添付したり、また投票録の記載に一部誤記があつたとしても、その事実のみをもつて投票が適法に行われなかつたということはできない。

(十一)、請求原因二(十)について、

原告等主張の事実はこれを争う。

選挙は候補者、運動員、選挙人及び選挙の事務執行者がそれぞれの分野において活動するのであるから、その全体を見るとき、全体としての選挙の自由公正に稍缺けるところがある場合が多いのは、選挙の実体である。これは、候補者や運動員或いは選挙人で公職選挙法の精神を無視して法令に違反したために、かゝる評価を受ける場合が多いのである。しかし、少くとも選挙の無効原因となるのはすべての法令違背の中から、いわゆる選挙の管理執行の規定に違反したものであることは、既に確立された判例理論である。然るに原告等は、法令違背を質的に分析することなく、あらゆる違法を掲げてその無効を主張しているが、この限りにおいて誤りである。

(十二)、請求原因二(十一)について、

原告等主張の(イ)の事実中、原告主張のような請求を受けていたことはこれを認めるが、その趣旨は争う。右は公職選挙法施行令第五〇条に違反していない。

昭和二七年選挙運動の期間が短縮され、更に昭和三一年三月一五日法律第八号で現行の七日間となつた。従つて、遠隔の地では到底間に合わないので期日前に請求を受けてもこれを返却することなく、告示の日迄保管するようにすべきである。

解釈としてはかゝる場合に規定違反を生じないとされている。(昭和二六年三月質疑集参照)原告等主張の(ロ)の事実中、原告等主張の請求者がその主張のような遠隔の地にある者であることは認めて利益に援用する。その余の事実はこれを争う。

七日間に遠隔の地区は二往復できず、あたら選挙人の投票を不受理と決すべきことゝなるので、専ら、この点を配慮してなされた措置である。

原告等主張の(ハ)の事実はこれを争う。

仮りに原告等主張のようなことを言われたとしても、特別に他意あるものではなく、単に事実を述べたに過ぎないものと思料する。

(十三)、請求原因三について、

原告等の主張はすべてこれを争う。

原告等の主張は選挙の無効原因を判然区別せず、選挙の規定違反とその他の規定違反とを混同して主張した点があり、これを厳格に選挙の管理執行に関する規定違反についてのみ論ずるとき、いわゆるさしたる規定違反がなく、選挙は有効であつて原告等の請求は理由がない。

(十四)、請求原因四について、

原告等が昭和三三年一一月七日富来町選挙管理委員会に対し異議申立をなし、同年一二月四日前記委員会が異議申立を棄却(却下ではない)したこと及び原告等が更に被告に対し選挙無効の訴願をなし、昭和三四年三月三日附で前記訴願を棄却する旨の裁決をしたことは認めるが、その余はこれを争う。

(立証省略)

理由

原告等が昭和三三年一〇月二七日石川県羽昨郡富来町で行われた同町長選挙(以下本件選挙と略称する)での選挙人であること、右選挙における候補者は訴外岡田秀造、同浜辺半七郎ほか一名(このほか一名の点については証人北地音市の証言により認める)であり、浜辺半七郎が得票数四二六一票で当選し、次点者岡田秀造との得票差が二二九票(次点者岡田秀造との得票差の点については成立に争のない乙第二号証及び本件口頭弁論にあらわれた弁論の全趣旨とにより認める)であつたこと、原告等が同年一一月七日富来町選挙管理委員会に異議申立をなし、同年一二月四日前記委員会が右異議申立棄却の決定をした(棄却の決定の点については成立に争のない乙第一号証により認める)ので、原告等は更に被告に対し訴願し、被告が昭和三四年三月三日附で右訴願棄却の裁決をしたことは当事者間に争がない。

ところで、原告等は右選挙の無効を主張するので、以下順次争点について判断する。

一、選挙妨害の点について、

証人竹内又平、同宮田清造、同宝泉坊千代子、同秋元隆清、同池本良三、同桶谷清作、同平橋正三郎、同北地音市、同小室嘉平、同唐津勝二、同木谷善五郎、同表喜太郎、同石坂重永、同大滝与作、同西本賢太郎、同畑周蔵、同斎田菊太郎、同間谷久松、同竹谷丈吉、同西岡義一、同春木林太郎、同稍栄作、同向庄吉、同小橋直義、同高島林英、同名木佐五兵衛の各証言を綜合すると浜辺候補及びその運動者等が、昭和三三年一〇月二五日晩右選挙管内の富来町相神の青年クラブ及び大福寺小学校において「岡田候補は今朝七海で選挙違反で逮捕されたから同候補に投票しても無駄だ」と演説したほか、浜辺候補及びその運動者訴外中間則一、同西尾直吉、同黒口良治外数名の者等が、同日から翌二十六日にかけて、右選挙管内である相神、西海、八幡、石留、高田、草木、谷神、地頭、小室、酒見、福浦、中山、町居等の各部落の道路上等で浜辺候補の宣伝車から拡声器を使用して右と同趣旨の宣伝をしていたこと、しかもその演説ないしは宣伝の内容は虚偽のものであつたことが認められる。ほかに右認定を動かすだけの証拠がない。

しかし、証人宝泉坊千代子、同秋元降清、同池本良三、同平橋正三郎、同北地音市、同川岸俊雄、同唐津勝二、同木谷善五郎、同表喜太郎、同石坂重永、同大滝与作、同西本賢太郎、同間谷久松、同竹谷丈吉、同西岡義一、同稍栄作、同向庄吉、同小橋直義、同名木佐五兵衛の各証言を綜合すると、浜辺候補及びその運動者の者等が前記のような演説ないしは宣伝を行つた後間もなく、岡田候補及びその運動者数名の者等が、それらの地に「前記演説ないしは宣伝の内容はいずれも虚偽のもので、岡田候補はかく健在である」旨を拡声器を使用し宣伝車上より力説強調して巻き返えし戦術を行い選挙民全般に周知徹底せしめたことが認められるので、浜辺候補及びその運動者等の前記のような内容虚偽にして誹謗に満ちた宣伝もこれがため、本件選挙の結果に影響を与えたものとは認め難い。(前記証人の証言中この認定に副わない部分は信用しない)のみならず、公職選挙法第二〇五条第一項にいわゆる「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反するとき、または直接そのような明文がなくとも選挙の管理執行の手続上選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指称し、単に選挙運動の取締規定や罰則規定に違反するときを含まないと解するところ、前記のような浜辺候補及びその運動者等の演説ないしは宣伝が選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反したものとも、または選挙の管理執行の手続上選挙の自由公正の原則を著しく阻害したものとも認めがたいことは前記認定の事実に徴して明らかであるので、右のような事実は選挙運動の取締規定ないしは罰則規定に違反していることがあつても、これを以て本件選挙の無効の原因となすことはできがたい。原告援用の判例は本件に適切なものではない。

次に証人日脚清一、同竹内良以の各証言を綜合すると、富来町笹波部落(本件選挙管内)総会が昭和三三年一〇月一六日同部落区長訴外日脚清一方で部落事業の議題で招集され、その議題についての会議終了後部落民の一部から今次町長選挙で浜辺候補を推すべきか、岡田候補を推すべきかについての動議が提案され、訴外平田某が座長となつて論議され、訴外森本寅男から右日脚区長に対し「選挙は自由でないか、そんなことをしてもよいのか、区長はどう思うか」と質し、日脚区長からは「選挙は自由であるからそれぞれ推したい人を推したらよい」旨答弁したが、結局多数で、笹波部落としての支持候補を浜辺候補とすることに決議されたこと、その際岡田候補を支持する者は部落としての要職につけないようにすることの動議を提案した者もいたが、右動議は座長において取り上げず、議題として決議されるに至らなかつたことが認められる。

証人森本寅男、同蒲田重作の各証言中右認定に副わない部分は前顕各証拠に対比して容易に信用できず、ほかに訴外日脚清一が原告等主張のようなことを同区民に対して言つたことを認めるに足る証拠がない。従つて、右日脚清一が本件選挙に際し笹波投票区の投票管理者となつたことは当事者間に争のないところであるけれども、右のような事実を以て、選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反したものとも、また選挙の管理執行の手続上選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則に著しく阻害したものとも認めがたいので、本件選挙の無効の原因とすることはできない。

二、投票所の設備の違法について、

本件選挙において、風無投票所が羽昨郡富来町西海公民館に開設され、投票受付の場所を階下に設け、他の場所を階上に設けたことは当事者間に争がなく、証人木下不及(第一、二回とも)同高岩治三郎(第一回)、同水島治一、同大庭喜三治の各証言を綜合すると、右選挙において、風無投票所は西海公民館の階上を選挙人名簿の対照、投票用紙の交付、投票の記載及びその投函をなす室とし、同所にそれらの手続を十分監視し得るような配置で投票管理者並びに投票立会人の席を設け、階下には選挙人名簿を抜き書きした帳簿に照し、入場券持参者の人違いないことを確めた後その到着の順序に従い番号札を交付する受付所のある室を設けたことが窺知される。

ところで、投票所とは選挙に関する法律上必要の手続である選挙人名簿の対照、投票用紙の交付、投票の記載及びその投函をなす場所を指すものと解すべきであるから、これらの手続をなす室こそは投票管理者及び投票立会人が十分監視し得るような構造を以て配置しなければならないが、選挙人名簿を抜き書きした帳簿に照し、入場券持参者の人違いないことを確めた後その到着の順序に従い番号札を交付する受付所のある室のごときは、投票所に入るまでの控室たるに過ぎないから、このような受付所の室のみを階下に設けたとしても、投票所の設備に違法ありとなすことはできない。

従つて、原告等のこの点に関する主張は爾余の点に対する判断をなすまでもなく理由がないものとして、到底採用することができがたい。

三、投票箱についての違法について、

成立に争のない乙第四号証の一ないし五に証人中平鶴松、同小林正信、同中松太郎の各証言を綜合すると、本件選挙において入釜投票所では、右投票に使用される投票箱が金属製組立式のもので、投票日の前日富来町選挙管理委員会から運ばれていたが、その組立前の折畳みのものに南京錠一個が裏返えしのまゝ施錠されていて、これを開いて組立てることができなかつたため、同投票所の選挙事務従事者訴外中平鶴松は右の南京錠一個を破壊してこれを組立て、右選挙当日午前七時所定の如く点検後側板をはめて蝶つがいをかけ、鍵をかける際、該箱は本来投票に使用中は右蝶つがいの二個所に鍵をかけ、投票終了後は更に投票口を閉鎖し同所に一個の鍵をかける仕組で三個の南京錠を具備していたが、既に一個を破壊し、更に閉鎖後の施錠のため一個を残さねばならない関係と二個所の鍵穴を有している蝶つがいの側板の部分一個所に鍵をかけることにより投票箱は完全に閉鎖されている(但し投票口を除く)仕組となつていた関係で、その側板の部分一個所だけに鍵をかけけ、他の一個所に鍵をかけず、これを使用して投票を執行したこと、その間投票の増減、改ざん等選挙の公正を害する事実がなく、また投票箱につき不正の行為が行われる余地もない状況であつたことが認められる、ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

右のように一個所の施錠による投票箱を使用しても一個所の施錠により完全に投票箱が封鎖され(但し投票口を除く)、右投票箱により不正の介入を認めるべき余地がない以上、右の程度の不備は未だ、選挙の管理執行に違法があつたものということができないので、原告等のこの点に関する主張は理由がない。次に、原告等は今田投票所において、投票立会人等が投票開始後の午前八時頃投票箱を開披した旨主張するけれどもこれを認めるに足る証拠がない。

尤も、成立に争のない乙第五号証の一、二に証人土谷銀造、同木本米松、同喜佐忠信の各証言を綜合すると、本件選挙において、今田投票所に使用された投票箱は外蓋、内蓋の二個の蓋を有し、且つ各二個宛施錠する仕組となつていたが、右選挙当日午前七時所定の手続を終えて事務従事者訴外土谷銀造が右投票箱の内蓋を閉し、一個所に施錠したが残り一個所の錠の具合が悪く容易に施錠が完了しなかつたため、その施錠作業に手間取り午前七時十分頃に漸く残り一個の施錠を完了したこと、その間選挙人約三名が投票を行つたが、投票箱の内蓋をとり投票箱を開披したこともなく、投票管理者訴外木本米松、投票立会人菖蒲広吉、同茂腹賢正、同喜佐忠信(同人等がそのような職務にあつたことについては当事者間に争がない)はこれを監視し、何等不正の行われた形跡がなかつたことが認められる。

証人丸山真作の証言中右認定に副わない部分は信用しない。

ところで、右認定のように投票箱の施錠の一部未了のうちに投票を執行したことは多少穏当を欠くものと言いうるかも知れないが、右認定のように既に内蓋を閉じ一個の施錠を了し、その間不正行為の介入する余地が認められない以上、これがため選挙の管理執行に違法があつたものとは認めがたいし選挙の公正が著しく阻害されたものということもできずまた選挙の結果に異動を及ぼすおそれもないものといわなければならないので、原告等のこの点に関する主張も理由がない。

四、投票立会人の遅参(定員欠缺)について、

成立に争のない甲第二号証の一に証人木下不及(第一、二回とも)、同大庭喜三治、同山寺松太郎の各証言を綜合すると、本件選挙において、風無投票所では、投票立会人は訴外山寺松太郎、同坂本久造、同川口秀三の三名であつたが、右坂本久造、川口秀三がその投票所を開くべき午前七時になつても参会しないため、投票管理者訴外高岩治三郎より同投票区における選挙人名簿に登録されている事務従事者訴外木下不及、同大庭喜三治に右坂本久造、川口秀三の参会するまでの間投票立会人になるように言われて同人等がこれを承諾して、補充選任され、定時に投票が開始されたこと、右坂本久造は午前七時二〇分頃川口秀三は午前七時四〇分頃参会したので、右木下不及、大庭喜三治はそれぞれ解任され、以後山寺松太郎、坂本久造、川口秀三がそれぞれ投票立会人として、投票が行われたこと、元来右木下不及は記録係に、大庭喜三治は投票用紙の交付係にそれぞれ選任されており、右記録係、投票用紙の交付係の席はいずれも投票の執行を十分監視し得る位置に設けられていたため、同人等が投票立会人に選任されている間も木下不及は記録係の席で、大庭喜三治は投票用紙交付係の席でそれぞれ投票立会人としての職務を遂行したもので(木下不及は投票立会人の職務執行中は代理投票の申請がなく、代理投票補助者の職務を行つていなかつた)、その間の投票執行について、何等不正の形跡がなかつたことが認められる。

証人高岩治三郎の証言中右認定に副わない部分は前顕各証拠に照し容易に信用しがたく、ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

以上認定のような事実関係にあつては風無投票所での右投票は投票立会人の定数を欠くことなく執行されたものと解すべきで、投票の管理執行に違法があつたものということができないので原告等のこの点に関する主張は理由がない。

五、代理投票の手続の違法について、

(イ)  風無投票所について、

前顕甲第二号証の一に証人木下不及(第一、二回とも)、同水島治一(後記措信しない部分を除く)、同梅川いと、同小網重吉の各証言を綜合すると、本件選挙における風無投票所での代理投票の補助者には、選挙当日の投票開始前において、あらかじめ訴外木下不及、同水島治一が投票管理者訴外高岩治三郎により選任され(この選任については投票立会人に異議がなかつた)ていたこと、右選挙の選挙人訴外梅川いと、同板橋喜久能、同尾谷志ん、同辻かの、同小松辰次郎はいずれも文盲のため、右投票所の階下受付所で代理投票を申請したが、老令ないしは病弱のため二階の投票所に行くことができなかつたため、右梅川いと、同板橋喜久能、同尾谷志ん、同辻かのについては補助者水島治一、同木下不及が同人等を二階の投票記載所に連行することなく、階下受付所附近において右水島治一がそれぞれ各別に選挙人の指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し、木下不及がそれぞれ立会い、これを二階の投票箱に投函し、小松辰次郎については投票管理者により補助者として選任されていない事務従事者訴外村中悟が小松辰次郎を二階の投票記載所に連行することなく階下受付所附近で小松辰次郎の指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し立会人を附せず、右投票用紙を二階の投票箱に投函して、その代理投票を執行したほかは、いずれも木下不及、水島治一が代理投票の補助者となり選挙人を二階の投票記載所に連行し同所で、うち一名が各選挙人の指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し、他の一名がこれに立会つて代理投票を執行したものであること、右代理投票執行について投票立会人から何等の異議もなかつたことが認められる。

証人高岩治三郎、同水島治一の証言中右認定に反する部分はこれを信用しない、ほかに右認定を動かすだけの証拠がない。ところで、あらかじめ選任した代理投票の補助者に選挙当日のすべての代理投票を補助させても、違法と解すべきでないが、(最高裁判所昭和二八年(オ)第一二四九号同二九年六月二二日最高裁判所判例集八巻六号一一九〇頁参照)、右認定のように、選挙人を前叙のように投票所ということのできない受付所附近で補助者により投票の記載がなされ、更に投票管理者により選任されない者が立会人なくして投票の記載をなして代理投票を執行することは代理投票の執行に関する規定に違反するもので、当該投票を無効と解すべきである。従つて前記梅川いと、同板橋喜久能、同尾谷志ん、同辻かの、同小松辰次郎についての代理投票は無効といわなければならないが、その他の代理投票の手続に関し違法の点が認められないことは前認定の事実に徴し明らかであり、前叙のように当選者と次点者との得票差が二二九票にも及ぶ本件選挙においては、右の程度の瑕疵はこれを以て著しく選挙の公正を害し、当然に選挙の結果に異動を及ぼすものとは認められないので、これを以て本件選挙を無効とすることはできない。

次に、原告等は風無投票所での代理投票数は投票録によれば、三九名であるが、そのほかに訴外川口一二三、同銭谷キミ、同松谷義則、同小松辰次郎の四名があると主張するので按ずるに、前顕甲第二号証の一によれば、本件選挙の風無投票所での代理投票数が投票録では三九名であること、右投票録記載の代理投票者のうちに訴外川口一二三、同銭谷キミ(訴外銭谷き已の記載はある)、同松谷義則、同小松辰次郎がいずれも記載されていないことが認められるので、前記認定の事実に徴し訴外小松辰次郎の代理投票が投票録に記載漏れとなつていることが明白であるけれども、その余の三名については、同人等が本件選挙において代理投票を行つたことを認めるに足る証拠がない。そして小松辰次郎の代理投票が投票録に記載漏れとなつていても、右のような投票録の瑕疵は後記説示により明らかなように選挙の効力に影響を及ぼすものではないから、原告等のこの点の主張も理由がない。

(ロ)  酒見投票所について、

成立に争のない甲第二号証の二に証人吉川重子、同安田義次の各証言を綜合すると本件選挙における酒見投票所での代理投票の補助者には選挙当日の投票開始前において、あらかじめ訴外吉川重子、同酒井有美が投票管理者訴外和泉操により選任され、(この選任には投票立会人の意見を聞いた上なされた)その旨事務主任の訴外安田により右吉川重子、酒井有美に伝達され、同人等がこれを承諾して、当日のすべての代理投票を補助し、その執行に当つては、補助者のうち一名が投票記載所に選挙人を連行し、同所で選挙人の指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し、他の一名がこれに立会つてなされたもので、補助者が特定候補者の姓をあげて誘導することがなかつたこと、同日の代理投票申請者訴外田川りよの場合においても、右のように執行したもので、補助者が田川りよに対し特定候補者の姓をあげて誘導していないし、これらの代理投票の執行について投票立会人より何等の異議もなかつたことが認められる。

証人宮野長太郎、同寺井きよ、同干場重の証言中右認定に副わない部分は容易に信用しがたく、ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

従つて、酒見投票所での代理投票の執行については原告等主張のような違法の点がなく所論は理由がない。

次に原告等は酒見投票所での代理投票数は投票録によれば、一七名であるが、そのほかに訴外田川りよ、同橋岡その、同山本みと、同奥下きせの四名があると主張するので、按ずるに、前顕甲第二号証の二によれば、本件選挙の酒見投票所での代理投票数が投票録では一七名であること、右投票録記載の代理投票者のうちに訴外田川りよ、同橋岡その、同山本みと、同奥下きせがいずれも記載されていないことが認められるので、前記認定の事実に徴し、訴外田川りよの代理投票が投票録に記載漏れとなつていることが明白であり、右甲第二号証の二に証人宮野長太郎の証言を綜合すると、右山本みと、奥下きせのほか訴外河島周蔵も右酒見投票所で代理投票を行つたが投票録に記載漏れとなつていることが推認される。訴外橋岡そのについては同人が代理投票を行つたことを認めるに足る証拠がない。

ところで、右認定のように投票録に代理投票の記載漏れがあつても、そのような投票録の瑕疵は前段説示のように選挙の効力に影響を及ぼすものではないから、原告等のこの点の主張も理由がない。

(ハ)  草木投票所について、

成立に争のない甲第二号証の三に証人嶋田久志の証言を綜合すると、本件選挙における草木投票所での代理投票の補助者には選挙当日の投票開始前において、あらかじめ訴外嶋田久志、同山海妙子、同館喜三松、同稍博敏、同中村忠夫が投票管理者訴外西岡忠一により選任され、更に代理投票の申請のあるごとにその都度選挙人ごとに右投票管理者より右のうちから二名宛選任され、(この選任につき投票立会人に異議がなかつた)うち一名が選挙人の指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し、他の一名がこれに立会つて代理投票が執行されたもので、右代理投票数は一二名でこれらの代理投票の執行については投票立会人から何等の異議もなかつたことが認められる。

ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

してみれば、草木投票所での代理投票の執行については原告等主張のような違法の点がなく、所論は理由がない。

(ニ)  地頭町投票所について、

成立に争のない甲第二号証の四に証人林康一の証言を綜合すると、本件選挙における地頭町投票所での代理投票の補助者はその代理投票を申請する選挙人ごとに、その都度投票管理者訴外室橋余所雄において投票立会人の意見を聞いた上二名宛選任し、うち一名は選挙人を投票記載所に連行しその指示する候補者の氏名を投票用紙に記載し、他の一名はこれに立会い確認し、これを選挙人に呈示しながら交付し、選挙人はこれを投票箱に投入して代理投票を行つたこと、訴外坂口モヨの代理投票執行に当つても、同人から代理投票の申請を受けるや、訴外林康一、同松田吉之丞が投票管理者から前記のように選任され、林康一において坂口モヨを投票記載所に連行し、その指示する候補者を投票用紙に記載し、松田吉之丞が立会つてこれを確認したので、林康一は投票用紙の記載を坂口モヨに呈示しながら交付し、同人においてこれを投票箱に投入したものであること同投票所での代理投票数は三一名でこれらの代理投票の執行については投票立会人から何等の異議もなかつたことが認められる。

証人磯新蔵の証言中右認定に副わない部分は前記証人の証言に照し容易に信用できない。

してみれば、地頭町投票所での代理投票の執行についても、原告等主張のような違法の点がなく、所論は理由がないものといわなければならない。

(ホ)  訴外野中ふで、同沢田つや(中浜投票所)、同黒杉柳子(入釜投票所)、同小路そい(大西投票所)が代理投票の申請をしないのに代理投票を執行され、何人を記載したか告知されなかつたとの主張について、

原告等の右主張事実を認めるに足る証拠がない。むしろ却つて、証人酒井秀憲の証言によれば、訴外野中ふで、同沢田つやはいずれも老令病弱のため字を書くことができないため本件選挙において中浜投票所で、代理投票を申請したものであること、その代理投票の執行に当りその補助者において原告等主張のような事実がなかつたことが認められ、証人黒杉柳子の証言によれば訴外黒杉柳子は本件選挙当時頭部負傷のため字を書くことができず、入釜投票所で代理投票を申請したこと、その代理投票の執行に当りその補助者において原告等主張のような事実がなかつたことが認められ、証人太田剣司(後記措信しない部分を除く)、同西浦要松の証言を綜合すれば、訴外小路そいは老弱のため本件選挙において大西投票所に息子に付添われて出頭し、代理投票を申請したこと、その代理投票の補助者には訴外西浦要松、同太田剣司が選任されて当つたが、西浦要松が代筆するため投票記載所に小路そいを連行し、その委嘱すべき候補者の氏名を求めたが、同人がこれを忘却していて述べることができなかつたところ、付添つて来て廊下(投票所外)に待機させられていた息子が候補者の氏名を叫んだため、記憶を想起して、委嘱すべき候補者氏名を指示したこと、西浦要松はその指示に従つて投票用紙に記載し、太田剣司がこれに立会つて確認し、これを小路そいに呈示しながら交付し、同人がこれを投票箱に投入したものであることが認められる。

証人太田剣司の証言中右認定に副わない部分は信用しない。右認定事実に徴すれば右の代理投票の執行手続において規定違反ないしは選挙の自由公正を著しく阻害したことを認め得ないので原告等の主張は理由がない。

六、不在者投票の違法について、

(イ)  富来町病院その他の病院の入院者について、

証人中平鶴松(第二回分)、同東林二郎、同山本みよの各証言を綜合すると、富来町病院は不在者投票を執行する医療機関に指定され、同病院長が投票管理者となつていたこと(公職選挙法施行令第五五条第二項第二号該当)昭和三三年一〇月二一日同病院の事務主任訴外中平鶴松は同病院入院者中本件選挙において不在者投票を必要とする選挙人を調査し、同病院長は右選挙人等の依頼を受け一括して富来町選挙管理委員会の委員長に対し、右選挙の投票用紙及び投票用封筒の交付を請求し、その交付を受けて、同月二四日、不在者投票を執行したこと、一般病棟入院者の分については、同病院小児科の診療室を投票所とし、結核病棟入院者の分(但し重病人二名を除く)については、同病院看護婦詰所を投票所とし、投票立会人には事務長を、選挙事務従事者には中平鶴松、看護婦長を選任し、各投票所にはあらかじめ、決済箱、鉛筆、糊を準備し、(箱、鉛筆を用意したことは当事者間に争がない)選挙人を一名宛投票所に入れ、各同所入口の内側の受付所で不在者投票請求の名簿と対照し確認の上投票用紙及び投票用封筒を交付し、選挙人は自ら投票用紙に記載し、これを投票用封筒に入れて糊で封をした上、同封筒に署名して投票箱に投入して退所し、ついで次の選挙人を投票所に入れ同様の手続を繰返えして順次不在者投票を行つたこと、重病者二名の分については、右投票終了後事務長及び看護婦長が選挙人等のベツトに順次廻つてそれぞれ投票用紙と投票用封筒を交付し、選挙人が各自ら投票用紙に記載しこれを投票用封筒に入れ、うち一名は直ちに封をして看護婦長に交付したが、他の一名は封をしないまま看護婦長に交付したところ、看護婦長は選挙人の面前で封をすることなく、選挙人の面前を退出した後封をしたことが認められる。

証人川端友吉、同佐野正夫の証言中右認定に副わない部分は前顕各証拠に照らし容易に信用できない。

ほかに、右認定を動かすに足る証拠がない。

右認定事実のように選挙人自ら投票用紙に記入しこれを投票用封筒に入れて封をした以上投票の秘密は十分保持できることが明らかであるから、一般投票箱(公職選挙法施行令第三三条)のような構造でない投票箱を使用して投票せしめたとしても不在者投票手続に違反するものということができないが、選挙人自ら投票用封筒に封をすることなく、選挙事務従事者にこれを交付し、事務従事者が選挙人の面前を離れた後これに気付いて封をすることは投票の秘密を保持したものということができず選挙の規定(公職選挙法施行令第五九条、第五六条第一項)に違反し、該投票を無効と解する。従つて、前記投票中重病人一名が投票用封筒に封をすることなく看護婦長に交付した分については該投票を無効といわなければならないが、前叙のように当選者と次点者との得票差が二二九票にも及ぶ本件選挙においては、右の程度の瑕疵はこれを以て著しく選挙の公正を害し当然に選挙の結果に異動を及ぼすものと認めることができないので、これにより本件選挙を無効とすることはできない。このことは右の瑕疵に前掲五(イ)に認定した瑕疵を加えて考慮してもなお変らない。

次に原告等主張の富来町病院以外の病院に入院した者の不在者投票についてその主張のような違法を認めうる資料がないのでこの点に関する原告等の主張は採用しがたい。

(ロ)  訴外笠原とくの不在者投票について、

原告等は訴外笠原とくが地頭町投票所の投票録では不在者投票をした旨記載されているが、同人は不在者投票をしていない旨主張するけれども、その主張を認めるに足る証拠がなく、むしろ却つて、成立に争のない甲第一号証の二七に本件口頭弁論にあらわれた弁論の全趣旨を綜合すれば、訴外笠原とくが本件選挙において不在者投票を行つたものであることが窺知される。

従つて、原告等の主張は採用できない。

(ハ)  訴外浜野さきの息子の不在者投票について、

成立に争のない甲第一号証の一五に証人浜野さきの証言を綜合すると、羽昨郡富来町黒本江五四の二四に住所を有する訴外浜野さきの息子訴外浜野博光は本件選挙当時東京都大田区六郷一ノ二七に居住し、本件選挙に当り、昭和三三年一〇月一八日付で富来町選挙管理委員会の委員長宛に右選挙の投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の請求書を提出し、同委員会では同年一〇月二〇日付で右請求書を受理していることが認められるが、原告主張のように同委員会が投票用紙及び不在者投票用封筒を告示前に訴外浜野さきに持参し同人からこれを浜野博光に送付させたことを認めるに足る証拠がないので、原告等のこの点に関する主張は理由がない。

(ニ)  訴外橋本きむの投票について、

証人坂本勇次の証言によると、訴外橋本きむは訴外加納次右ヱ門の内縁の妻として富来町高田部落に居住し、本件選挙においてはその選挙権を有する選挙人で、右選挙当日投票していることが認められる。

ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

従つて、原告等のこの点に関する主張は理由がない。

(ホ)  訴外天野武、同天野隆代の不在者投票について、

成立に争のない甲第一号証の四〇、四一に証人天野武の証言を綜合すると、訴外天野武、同榊原隆代こと天野隆代は昭和三二年頃より夫婦として富来町地頭町に居住し、本籍も高浜町より同所に移し、生活の本拠としていたが、右武が昭和三三年四月頃勤務先が稗造第二中学校より柳田村農業高等学校に転じたので、その頃から妻隆代と共に鳳至郡柳田村字柳田に移つたが、地頭の住所に所有の住家があり、同所に隆代の母がなお居住し、本籍でもあつたため、夫婦ともなお同所を生活の本拠とする意思で終始同所に帰えり、自己の印鑑をも隆代の母に預けて公私の交渉を委ね、同所で吉凶、慶弔、隣保の交際を続け、本件選挙においても不在者投票を行うため、富来町選挙管理委員会の委員長に対する投票用紙及び不在者投票用封筒の交付方請求の手続を隆代の母に依頼したこと、同人はその依頼に基き昭和三三年一〇月一九日付で、右両名各名義の右請求書を提出したこと、同委員会は同月二〇日付でこれを受理して右両名に対し投票用紙及び不在者投票用封筒を送付したので、右両名はこれによつて不在者投票を行つたことが推認される。

ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

右認定のような事実であつてみれば、訴外天野武、同天野隆代の本件選挙当時の住所は依然として富来町地頭町にあつたものと解すべく、同人等は本件選挙における選挙権を有する選挙人といわなければならない。従つて同人等のなした不在者投票には原告等主張のような違法がなく、原告等の所論は理由がないものといわなければならない。

(ヘ)  訴外高豊の不在者投票について、

証人高ふく、同坂本勇次の各証言を綜合すると、訴外高豊は富来町領家二の五六に住所を有し、本件選挙における選挙人(当時二一才)であるが、小学校二学年を修了しただけで、僅にひらがなで自己の氏名を書ける程度で、他人の氏名を書くことができず、しかも病弱で、身体の具合の悪いときには歩行も困難な状態であつたこと、昭和三三年一〇月二四、五日頃たまたま体の具合が良く歩行も可能となつたので高豊は母に付添われて、富来町選挙管理委員会(富来町役場と同一個所に存在)に赴き、不在者投票の代理投票を申請し、訴外苫谷某(右委員会の選挙事務補助者)同素都二喜子(富来町役場吏員)が代理投票補助者となつて、同所で右苫谷が高豊の指示する候補者の氏名を投票用紙に記入し、これに素都二喜子が立会つて投票を行い右投票用紙封入の投票用封筒の表面には苫谷がその氏名を記載して不在者投票管理者に提出したものであることが認められる。

ほかに右認定を動かすに足る証拠がない。

右認定事実に徴すれば、訴外高豊には不在者投票の要件並びにその投票手続に違法の点を認めることができないのでこの点に関する原告等の主張も理由がない。

(ト)  地頭町投票所の投票録及び受付簿の記載について、

地頭町投票所の投票録及び受付簿には投票数一三五〇、不在者投票の不受理決定数一二の記載があつて、右投票数から右不在者投票の不受理決定数を控除していないことは当事者間に争がない。

原告等は前記投票数から不在者投票の不受理決定数を控除して記載すべき旨主張するけれども、公職選挙法施行令第七一条によれば開票管理者は不在者投票の不受理決定を受けた投票について、最終的に受理、不受理の決定をしなければならないものであるから、投票録及び受付簿に投票数そのまゝを記載しても、これを以て該記載を違法であるということができない。

従つて、原告等の主張は理由がない。

(チ)  違法無効の不在者投票数多数の主張について、前記認定以外に違法無効の不在者投票を認めるに足る証拠がないのでこの点に関する原告等の主張は採用しがたい。

七、選挙権のない者の投票について、

地頭町投票所の受付簿には訴外高田一郎、同鹿島勝二、同鹿島明美、同鳥宮克子がいずれも不在者投票をした旨、入釜投票所の受付簿には訴外泉しのぶが投票した旨各記載されていること、同人等はいずれも選挙人名簿に登載されているが、右高田一郎、鹿島勝二、同鹿島明美、同鳥宮克子はいずれも本件選挙前三ケ月以上に亘つて他に転居し、泉しのぶは昭和三三年九月二六日門前町から転居して来たもので、それぞれ本件選挙について選挙権の要件を欠くものであることは当事者間に争のないところであり、受付簿に投票した旨記載されている以上他に反証のない本件においては同人等はいずれも本件選挙に不在者投票ないしは投票を行つたものと推認される。

ところで、選挙人名簿に登載されていても三ケ月以来当該市町村に居住しない者は当該市町村の議会の議員及び長の選挙権を有しないことは明らかであり(公職選挙法第九条第二項)、選挙の当日、選挙権を有しない者は、投票をすることができないことは公職選挙法第四三条に徴し明らかであるから、前記高田一郎、鹿島勝二、鹿島明美、鳥宮克子、泉しのぶの五名の投票は無効であると解するも、右のような事態を生じたのは結局選挙人名簿に誤載が存したことによるものと推認するの外ないところ、選挙人名簿の調製から確定に至るまでの手続に法規違反の事実の認められない本件においては、これを以て選挙の管理執行の手続に関する規定に、違反したものとも、または選挙の管理執行の手続上選挙の公正を害したものとも認めることができないので、選挙無効の原因となり得ないものといわなければならない。原告等は地頭町投票所の受付簿に訴外北山久公、同北山あき子が投票した旨記載され、当該選挙人名簿にも登載されているが、同人等は昭和三三年八月一〇日附で転入して来たもので、いずれも本件選挙において法定の選挙権を有しないものであると主張し、右北山久公、北山あき子が当該選挙人名簿に登載されていることは被告の認めるところであり、成立に争のない甲第三号証の五、六によれば地頭町投票所の受付簿に北山久公、北山あき子が投票した旨記載されているので他に反証のない本件においては同人等が本件選挙において投票したものと推認されるところであるが、同人等が原告等主張のような法定の選挙権を有しないものであることを認めるに足る証拠がないので、この点に関する原告等の主張は採用できない。

八、偽造の疑ある投票について、

(イ)  大西投票所について、

原告等は大西投票所の受付簿によれば選挙当日の投票及び不在者投票数等合わせて四六〇名であるのに投票録によれば入票数四七四名となつていて偽造を疑わしめるものが一四票あると主張し、右投票録の入票数四七四名の記載については被告の争わないところであるが、原告等主張の受付簿にその主張のような記載があること及び偽造投票が一四票あることを認めるに足る証拠がないので、原告等の右主張は採用できない。

(ロ)  風無投票所について、

原告等は風無投票所での当日の入票数は受付簿記載の数を一〇票以上超過している旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠がないので、原告等の右主張も亦採用できない。

九、投票録の記載の虚偽について、

(イ)  風無投票所の分について、

原告等は風無投票所の投票録には投票立会人の補充として訴外木下不及、同大庭喜三治が選任され、これを承諾し、解任した旨の書面が添付されているが、これは全くの虚偽であると主張するけれども、前掲四において認定したように、風無投票所での投票立会人訴外山寺松太郎、同坂本久造、同川口秀三の三名中坂本久造、川口秀三の二名が投票所を開くべき午前七時になつても参会しなかつたため、投票管理者高岩治三郎より訴外木下不及、同大庭喜三治に対し右坂本久造、川口秀三の参会するまでの間投票立会人になるよう言われて、同人等がこれに承諾して、補充選任され、定時に投票が開始されたが、右坂本久造は約二十分、川口秀三は約四〇分遅れて参会したので、木下不及、大庭喜三治はそれぞれ解任されたものである以上、前記のような添付の書面が内容虚偽のものということができないことは明白である。

尤も成立に争のない甲第四号証の一ないし六に証人木下不及の証言(第二回分)を綜合すると、前記木下不及、大庭喜三治を臨時投票立会人に選任する旨の各選任書並びに解任する旨の各解任書及び同人等の各承諾書は本件選挙の数日後において右選挙当日に遡つた日附で作成されたものであることは認められるが、右選任書並びに解任書が投票管理者をして強いて押印せしめたものであることを認めるに足る証拠がない。また、成立に争のない甲第二号証の一によれば、風無投票所の投票録には毎葉に立会人の契印がなされていないことが認められるが、後日これを書き直したことを認めるに足る証拠がない。

ところで、公職選挙法上(同法第五四条)、投票録は投票管理者がこれを作り、投票に関する次第を記載し、投票立会人とともに署名するものであるが、選挙の構成要件ではなく、単に投票に関する事実を証明するため作成する記録たるに過ぎないものと解すべきであるから、これらの記録が法定の形式を具備せず、作成または記載に不備、脱漏その他の違法があつても、それは当該投票録の瑕疵にとどまり、これがため適法に行われた選挙の効力に影響を及ぼすものということができないから、投票録に前記のような瑕疵があつても、これを以て、本件選挙の無効原因となすことはできないものといわなければならない。

従つて原告等のこの点に関する主張は理由がない。

(ロ)  福浦投票所の分について、

福浦投票所の投票録には代理投票の補助者に訴外松山宗縁、同柳橋豊元の氏名が記載されているが、真実は訴外角見ミツ子、同浦野和子がこれに任じていたものであることは当事者間に争のないところであるが、投票録は前段説示のようなものであつてみれば、右角見ミツ子、浦野和子が代理投票の補助者として適法に選任されている以上(角見ミツ子、浦野和子が適法に代理投票の補助者に選任されていることについては原告等が別段争つているものでないことは原告等訴訟代理人等作成の昭和三四年一一月一七日付準備書面記載の方法並びに本件口頭弁論にあらわれた弁論の全趣旨に徴し明らかである)投票録の記載に前記のような不備脱漏、誤記があつても、このため適法に行われた選挙の効力に影響を及ぼすものでないから、右の事実を以つて、本件選挙の無効原因となすことはできない。

従つて、原告等のこの点に関する主張も亦理由がないものといわなければならない。

十、違法な投票多数の主張について、

以上認定された違法無効な投票以外に、更に原告等主張のような違法無効とすべき投票を認めるに足る証拠がないので、この点に関する原告等の主張は理由がない。

十一、不在者投票用紙請求に関する違法について、

本件選挙期日の告示があつたのが昭和三三年一〇月二〇日であること、右告示の日の前である同年一〇月一六日から同月一九日までに右選挙についての投票用紙及び不在者投票用封筒(成立に争のない甲第一号証の一ないし五三によりこれを認める)を富来町選挙管理委員会の委員長に対し請求したものが原告等主張のような五三名に及んでいること、これらの者が何れも東京都、横浜市、大阪市、広島市、福岡市等遠隔の地にあるものであることは当事者間に争のないところである。

原告等は右の請求書はすべて富来町選挙管理委員会自ら印刷作成し、右の請求者に爾前にこれを送付して右のような請求をなさしめたものであり、右請求者はすべて浜辺半七郎候補の支持者と目されるものであると主張するけれども、これを認めるに足る証拠がない(この点に関する証人山村松雄の証言(第一、二回とも)は証人東林二郎、同坂本勇次の各証言に照らして容易に信用できない)。

むしろ却つて、成立に争のない甲第一号証の一ないし五三に証人坂本勇次の証言を綜合すれば、本件選挙期日の告示の日及び投票の日が決定されたのは右告示の日である昭和三三年一〇月二〇日より約一週間前であつたところ、これを新聞記者に探知され、右決定の日の翌日北国新聞に右告示の日及び投票の日が掲載されるに至つたこと、そこで本件選挙に立候補しようとしていた者ないしはその運動員の者の一部の者が前記請求書の書式を研究の上右のような請求書用紙を多数謄写版で刷り、そのうちから前記五三名の者に何等かの方法で告示前に届けた結果、右のように告示前に請求書が提出されるに至つたものと推察されるうえ、同証拠によれば、富来町選挙管理委員会は右のように選挙期日の告示前に提出された請求書を違法として返却することなく、告示の日まで、手許に保留し、告示をした日に、それらについて受理の手続をとり、右請求の趣旨に副う投票用紙及び不在者投票用封筒の交付等の手続を行つたのが、右告示の日以後であることが認められる。

してみれば、前掲五三名のなした投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の請求は公職選挙法施行令五〇条に違反して選挙の期日の告示の日の前になされているけれども、富来町選挙管理委員会が右告示の日以後に投票用紙及び不在者投票用封筒の交付の手続を行つた以上、これを以つて違法なものということができない。所論は反対派候補者ないしはその運動員等が自派にさきがけて選挙期日の告示前に不在者投票の選挙運動を為し、選挙人をして右告示前に不在者投票のための投票用紙等の交付の請求を為さしめたことを云々するにすぎず理由がないものといわなければならない。

尤も証人山村松雄の証言(第一、二回とも)によれば、岡田候補の選挙運動者である訴外山村松雄が選挙の期日の告示のあつた日である昭和三三年一〇月二〇日富来町選挙管理委員会係員訴外坂本勇次に対し「今から不在者投票用紙等交付の請求書用紙を刷つても選挙当日までに間に合わないから不在者投票用紙等交付の請求書用紙と証明書用紙があつたらくれる」よう言つたところ、同係員が「今からして間に合うかな」と答えたこと、山村松雄は選挙の期日までに間に合わないものと考えて、本件選挙における選挙人で遠方にある岡田候補支持者と思料するものに対し不在者投票のための投票用紙等交付の請求書用紙の送付を断念したことが窺知されるけれども、右のような坂本の言辞を以て富来町選挙管理委員会が岡田候補支持者の不在者投票を妨害したものということができないし、また、本件選挙の管理執行の手続に違反したものということもできないことは明白である。

十二、以上認定したとおりであつて、結局原告等主張の諸事実中公職選挙法第二〇五条第一項にいわゆる「選挙の規定に違反したとき」に該当するものと認められるものは前掲五(イ)の代理投票の執行に関する規定違反として説示した無効投票五票に関する分と、前掲六(イ)の不在者投票の執行に関する規定違反として説示した無効投票一票に関する分というべきも、これらの違反事実を綜合して考察しても右の程度の瑕疵を以ては未だ著しく選挙の自由と公正を阻害したものと認めることができないし、当選者と次点者との得票差が二二九票に及ぶ本件選挙においては、未だ選挙の結果に異動を及ぼすおそれのあるものとも認めることができないことは既に説示したとおりであるが、仮りに公職選挙法第二〇五条第一項にいわゆる「選挙の規定に違反したとき」に前掲七の無権利者の投票として説示した無効投票五票に関する分その他上来認定した諸種の瑕疵をもすべて包含するものとしても、これらを以てしてもなお著しく選挙の自由と公正を害したものと認めることができないし、当選者と次点者との得票差が二二九票である本件選挙においては、未だ選挙の結果に異動を及ぼすおそれのあるものとも認めることができないので、これらを以て本件選挙を無効とすることができない。

よつて、原告等の本訴請求は理由がなく、失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小山市次 広瀬友信 高沢新七)

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